「感染病拡大で経営が立ち行かず休業するしかない」
「景気が戻ったときのためにどうにかして雇用は守りたい」
「雇用調整助成金って聞くけどどうやって使うの?」
経営者であれば、従業員の雇用はどうにかして守りたいもの。
簡単にクビを切る経営者は、社会的な信用を得られません。
また、従業員を簡単に解雇する評判が一度たった会社は、景気が戻ったときに必要な人手集めに苦労するでしょう。
事業を休業せざるを得なくなったときに、従業員に支給してくれる休業手当を補てんしてくれるのが、雇用調整助成金です。
国は矢継ぎ早に雇用調整助成金の特例・拡充を打ち出して、感染症拡大を乗り切ろうとしています。
必ず景気は戻りますので、中小企業は雇用調整助成金を活用して、今はじっと耐え忍びましょう。
デジマチェーンが、雇用調整助成金の概要・申請方法・感染症対策における特例と拡充について説明します。
厚生労働省の複雑な説明は少しわかりにくいので、多くの経営者が活用する休業による雇用調整に焦点を当ててシンプルに説明します。
中小企業が使える鉄板資金調達方法である補助金・助成金・融資について完全解説した記事です。
1.雇用調整助成金とは?
「雇用調整助成金」制度の目的は、労働者の失業防止です。
感染拡大防止のため、従業員を休業させざるを得ない企業や商店が増えています。
労働基準法では、従業員には「休業手当」として賃金の6割以上を支払わなければなりません。
ところが、当然のことながら休業すると事業の売上はほぼゼロです。
売上がなければ休業手当を支払うことも難しく、仕方なく従業員の解雇せざるを得ないケースもあるでしょう。
そうした解雇事案を防ぐため、休業手当の一部を国が負担する制度が「雇用調整助成金」です。
従業員が雇用調整助成金を直接もらうわけではありませんが、事業者を通して雇用調整助成金が従業員の雇用と収入を守ってくれます。
「月給のXX割が支給される」わけではない
雇用調整助成金について、ネット上などでは「月給のXX割が国から個人に支給される」という勘違いも見られます。
正しくは、支払った休業手当に対して事業者に支給される助成金です。
2.雇用調整助成金の受給額は?
雇用調整助成金の受給額は、事業主が支払った休業手当等の賃金負担額 × 以下の助成率です。
- 中小企業の助成率 2/3
- 中小企業以外の助成率 1/2
ただし上限額が定められており、1人1日あたり8,330円(令和2年3月現在)です。
休業中の従業員に教育訓練を行った場合は、1人1日当たり1,200円が加算されます。
つまり、教育訓練を行う場合の上限額は1人1日当たり9,530円です。
受給できる日数にも上限があり、1年の間に最大100日分、3年の間に最大150日分受給できます。
感染病対策においては、支給割合・教育訓練の割増額・受給できる日数で特例が適用されます。
感染病対策においての、雇用調整助成金の拡充・特例については「5. 感染病対策での特例事項は?」で説明します。
雇用調整助成金の計算例(通常バージョン)
例として、月30万円の給料を受け取っている従業員に、60日休業してもらうケースで計算してみましょう。
月30万円を1カ月(所定労働日数20日とする)で割ると、1日1.5万円です。
事業主が賃金の6割の休業手当を従業員に支払うとすると、1日あたり9,000円の休業手当になります。
60日間分の休業手当は、9,000円×60日で合計540,000円です。(従業員に支払われる額)
中小企業であれば、540,000円のうち、2/3の360,000円が雇用調整助成金として国から支給されます。
雇用調整助成金のおかげで、会社としての実質の負担額は180,000円で済むわけです。
3.雇用調整助成金の受給要件は?
雇用調整助成金を受給するために必要な要件には、主に以下の5つがあります。
それぞれの要件を説明します。
感染症対策においての、雇用調整助成金の拡充・特例については「5. 感染病対策での特例事項は?」で説明します。
(1)雇用保険の適用事業主であること
助成金の財源は基本的に雇用保険ですから、雇用調整助成金の受給要件に雇用保険に入っていることが含まれるのは自然な流れです。
ただし、感染病対策においては、雇用保険に入っていないアルバイトやパート従業員についても、雇用調整助成金の対象になる特例が適用されます。
「5. 感染病対策での特例事項は?」で詳細を説明します。
(2)売上高などが減少している
雇用調整助成金は、売上高や生産量などの事業活動を示す代表的な指標について、最近3カ月間の月平均値が前年同期に比べて10%以上減少していることが必要です。
ただし、感染病対策においては、「3カ月」や「10%」の要件が拡充されて、雇用調整助成金の対象が広がっています。
「5. 感染病対策での特例事項は?」で詳細を説明します。
(3)雇用者数が増加していないこと
雇用調整助成金を受給するには、雇用保険被保険者数(従業員数)が、最近3カ月間の月平均値が前年同期に比べて以下の指標より増加していないことが必要です。
- 中小企業:10%を超えて増えていない、かつ4人以上増えていない
- 中小企業以外:5%を超えて増えていない、かつ6人以上増えていない
ただし、感染病対策においては、雇用者数においても要件が拡充されて受給対象が広がっています。
「5. 感染病対策での特例事項は?」で詳細を説明します。
(4)実施する雇用調整が一定の基準を満たすこと
雇用調整助成金を受給するには、休業などの雇用調整内容が以下の基準を満たすものであることが求められます。
それぞれのケースについて説明します。
#1.休業する場合
休業する場合には、所定の労働日1日にわたり休業とすること、または対象の事業所の従業員全員に対し1時間以上実施することで雇用調整助成金の受給要件を満たします。
#2.教育訓練する場合
休業中に教育訓練を実施することで、雇用調整助成金の支給額が割り増しされます。
教育訓練の内容は、職業に関する知識や技術の取得等を目的としなければなりません。
ただし、感染病対策においては割り増し額が拡充されます。
感染病対策においての、雇用調整助成金の拡充・特例については「5. 感染病対策での特例事項は?」で詳細を説明します。
#3.出向させる場合
雇用調整のために従業員を出向させる場合は、3カ月以上1年以内に元事業所に復帰させなければなりません。
(5)1年以内に雇用調整助成金の支給を受けていないこと
以前に雇用調整助成金や中小企業緊急雇用安定助成金を受給したことがある場合は、前回の受給対象の期間が満了した日の翌日から1年以上経過していなければなりません。
ただし、感染病対策においては要件が緩和されています。
「5. 感染病対策での特例事項は?」で詳細を説明します。
4.感染病対策での特例事項は?
感染病拡大の影響で従業員の休業を行う事業所に対して、雇用調整助成金の緊急特例が以下の8ポイントで実施されます。
- 対応の休業期間は4/1~6/30
- 売上・雇用者数などの要件の緩和
- アルバイトやパート、新卒社員にも適用される
- 助成率・教育訓練割り増し額のアップ
- 受給経験制限の撤廃と支給限度日数の別枠化
- 計画書の事後提出と申込書類の簡素化
- 新規事業所要件の廃止
- 教育訓練の内容拡充
それぞれのポイントについて説明します。
自治体ごとに、感染病対策でさまざまな休業補償金・休業応援金などが計画されているようですが、まずは確たる財源の後ろ盾がある雇用調整助成金を活用しない手はありません。
(1)対応の休業期間は4/1~6/30
緊急対応期間として、2020年4月1日~6月30日が指定されており、その間の休業について特例が適用されます。
感染拡大防止のために、まずは4月~6月までの3ヶ月間を緊急対応期間に設定されています。
6月末の期限が近付いてきた段階で、感染状況等を見極め、必要な対応を再検討するようです。
(2)売上・雇用者数などの要件の緩和
通常は、販売量、売上高等が、過去「3カ月」に渡って「10%」以上低下していることが支給要件ですが、今回は1カ月5%低下していれば申請可能です。
また、通常は最近3カ月に雇用者数を一定以上増やしていると、助成金の対象外になりますが、今回の特例では新規雇用者数の要件を撤廃しています。
(3)アルバイトやパート、新卒社員にも適用される
通常は、雇用保険に入っていないアルバイトやパート従業員は対象外ですが、今回は、アルバイトやパート従業員の休業手当も助成金の支給対象になります。
また、雇用されて6カ月未満の新規採用者については、通常は助成の対象とはなりません。
しかし、今回の特例では、内定後1 日も勤務していなかったとしても、助成金の対象です。
事業主が雇用保険に入っていなくても、労災保険適用事業所、暫定任意適用事業所であれば、今回の特例では助成対象となります。
(4)助成率・教育訓練割り増し額のアップ
通常の雇用調整助成金の助成率・教育訓練の割増金から、以下の表のように割り増しされています。
通常 | 特例 | 解雇を行わないなら | |
中小企業 | 2/3 | 4/5 | 9/10 |
中小企業以外 | 1/2 | 2/3 | 3/4 |
賃金の60%を超えて休業手当を支給する場合、60%を超える部分に係る助成率を特例的に10/10とする
上限額は変わらず、1人1日あたり8,330円(令和2年3月現在)です。
もともと雇用保険ベースの助成金なので、雇用保険に基づいた上限額が変わらないのがもどかしい限りです。
ただし、休業中に教育訓練を行った場合は、通常の加算額は1人1日当たり1,200円ですが、今回の特例では以下のように加算額も増額されます。
- 中小企業 1人1日当たり2,400円
- 中小企業以外 1人1日当たり1,800円
つまり、教育訓練を行う場合の上限額(通常は9,530円)は以下のように増額されます。
- 中小企業 1人1日当たり10,730円
- 中小企業以外 1人1日当たり10,130円
オンライン講座での教育訓練も可能ですので、今回は特に教育訓練による割増の活用必須でしょう。
雇用調整助成金の計算例(特例バージョン)
例として、月35万円の給料を受け取っている従業員に、60日休業してもらうケースで計算してみましょう。
休業中には教育訓練を行ったとします。
月35万円を1カ月(所定労働日数20日とする)で割ると、1日17,500円です。
事業主が賃金の6割の休業手当を従業員に支払うとすると、17,500円×0.6=1日あたり10,500円の休業手当になります。
60日間分の休業手当は、10,500円×60日で合計630,000円です。(従業員に支払われる額)
1日あたり10,500円の休業手当のうち、中小企業(解雇を行わない、かつ教育訓練を行った)であれば、9/10の9,450円が雇用調整助成金として支給されます。
つまり、9,450円×60日の567,000円が国から事業所に支給されます。
雇用調整助成金のおかげで、会社としての実質の負担額は630,000円-567,000円のわずか63,000円で済み、従業員も解雇せずに済むのです。
(5)受給経験制限の撤廃と支給限度日数の別枠化
通常、1年以内に雇用調整助成金を受給したことがある場合は助成対象となりませんが、今回の特例措置では、受給経験制限が撤廃されています。
また通常の場合、過去1年に通算100日分、過去3年以内に通算150日分までしか雇用調整助成金を受給できませんが、今回の特例での受給日数は通算日数にカウントされません。
(6)計画書の事後提出と申込書類の簡素化
通常、計画届は休業を開始する前にハローワーク等に提出しなければなりませんが、今回は6月30日までに計画届を提出すれば大丈夫です。
休業を実施し、休業手当を従業員に支払った後に計画届と支給申請書を一緒に提出できます。
また、申請書類等については、記載事項が半分ほど削減され、添付書類も削減されることで大幅に簡素化して申請手続きの負担軽減が図られています。
(7)新規事業所要件の廃止
通常、設置して1年未満の新規事業所は支給対象外ですが、今回の特例措置では事業所設置後1年未満の事業主についても助成対象とします。
その際、売上額等の生産指標は、最新月と、2019年12月との1か月分の指標で比較すれば大丈夫です。
(8)教育訓練の内容拡充
教育訓練は、職業、職務の種類を問わず、一定の知識・ノウハウを身につける以下のような訓練も受給対象になります。
- 接遇・マナー研修
- パワハラ・セクハラ研修
- メンタルヘルス研修
また、自宅等でインターネット等を用いた片方向・双方向で実施する訓練も、一定レベル以上の講師が行う場合は対象となります。
さらに、繰り返しの教育訓練が必要なもので、過去に行った教育訓練を同一の労働者に実施する場合も対象です。
5.雇用調整助成金を受給申請する流れは?
雇用調整助成金を受けるまでの4ステップは以下です。
それぞれのステップについて説明します。
(1)休業の計画と労使間協定
休業の計画にあたって、労使間で以下の重要点について十分に話し合って決定してください。
- 休業する従業員の範囲
- 休業する期間
- 教育訓練の有無、内容
- 休業手当の支給率(平均報酬の6割以上)
労使間で休業にかかる協定を締結します。
(2)計画書の提出と休業の実施
休業等を開始する2週間前をめどに、管轄のハローワークや労働局に計画書を提出し、休業を実施します。
計画書は、郵送での提出も可能です。
ただし、感染病対策においては計画書の事後提出が認められています。
「5. 感染病対策での特例事項は?」で詳細を説明します。
(3)支給申請
休業の実績に基づき、必要な書類を添付して管轄のハローワークや労働局に支給申請をします。
申請書類は、郵送での提出も可能です。
申請期限は、「支給対象期間」の末日の翌日から2か月以内です。
(4)審査・支給
支給申請の内容について、労働局で審査が行われます。
支給申請を提出した管轄労働局、またはハローワークから支給決定または不支給決定の通知書が事業所宛に送られます。
雇用調整助成金の支給が決定した場合、支給される金額が振り込まれます。
6.申請から支給までどれくらいかかる?
通常は申請からおよそ2か月以内の支給が標準的ですが、申請数の急増で審査手続きが遅れがちになっています。
はっきり言って申請数と、一日あたりの審査手続き可能数がまったくマッチしていません。
経営者の立場では、足元の資金繰りが厳しいので支給までのタイムラグは1日でも詰めたいところでしょう。
審査を行う都道府県労働局などでは、他部署からの応援を募ったり、新たに採用をしたりするなどの対策を取って、2か月以内、できればもっと短い時間での支給を目指して努力しているようです。
どちらにしても、迅速に申請手続きを始めましょう。
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